K-pop

SF9の10年:1位まで3年3か月、10年目に『Tenacity』という名前

2016年の秋、FNCエンターテインメントが初めてダンスグループを世に出したとき、業界の視線はぬるかった。FTISLANDやCNBLUEを送り出してきた、バンドで名を上げた会社である。踊る9人の新人はその経歴にそぐわないように見えた。SF9はMnetのサバイバル番組『d.o.b(Dance or Band)』でバンドチームを破ってデビュー枠を勝ち取ったが、デビューはそのまま注目を意味しなかった。初めての音楽番組1位までには、およそ3年3か月かかっている。

10年が過ぎた今、その時間は別の話として読める。このSF9レビューでは、このグループが道の途中で何を選んできたのかをたどる。

  • Spotifyの月間リスナー:248,660人(2026年8月時点)
  • 最も再生されている曲:デビュー翌年に出した「O Sole Mio」——約2,528万回
  • 2025年の単独ツアー『LOVE DAWN』——6か国24都市
  • 2026年8月26日:デビュー10周年を迎えて2枚目の正規アルバム『TENACITY』を発表
SF9のメンバーが2枚目の正規アルバム『TENACITY』のコンセプトフォトで鳥かごを囲んで立つ集合カット
2枚目の正規アルバム『TENACITY』のコンセプトフォト · © SF9 Official X

出だしの遅かったグループがどうやって10年を埋めたのかは、その間ずっと何を選び続けたのかを見れば見えてくる。

ジャンルを変えてきた10年

SF9のディスコグラフィーでいちばん目を引くのは、ひとつの色に落ち着かなかったことだ。デビュー曲「Fanfare」はブラスが前に出る王道のパフォーマンス曲だったが、翌2017年に出した「O Sole Mio」はラテンポップだった。当時のK-POPシーンでは珍しい選択である。

その後も方向は動き続けた。2018年の「Now or Never」ではディープハウスの質感を、2020年の「Good Guy」では重いベースとミニマルな編曲を、2021年の「Tear Drop」では夢のようなシンセとファルセットを前に出している。

面白いのは、これらの実験がいまどう残っているかだ。2026年8月時点で、SpotifyのSF9の再生上位5曲は次のとおり。

表1. SF9のSpotify最多再生曲(2026年8月時点)

順位 累計再生数
1 「O Sole Mio」 25,283,902
2 「Now or Never」 22,809,618
3 「Tear Drop」 22,220,602
4 「Good Guy」 21,014,154
5 「Summer Breeze」 11,437,878

上位4曲がそれぞれ別のジャンルに属している。しかも1位は最もヒットした曲でも最新曲でもなく、デビュー翌年のラテンポップの実験だ。流行を追わなかった選択が、9年たったいまもこのグループを最も広く届けている、という読み方ができる。

SF9の3枚目のミニアルバム『Knights of the Sun』のジャケットで、夕日を背にメンバーが歩く場面
3枚目のミニアルバム『Knights of the Sun』のジャケット · © FNC ENTERTAINMENT

もちろん、アルバムごとに色を変えるのは代償を伴う選択でもある。ひとつのイメージで刻まれにくく、新譜が出るたびに説明がやり直しになる。ただ、時間の幅を長くとると結果は裏返る。特定の時期の流行に縛られなかった曲は、その流行が過ぎたあとも古びにくかった。

曲づくりの側でもメンバーの比重は増してきた。初期はラップメイキング程度だった参加が作詞・作曲のクレジットへ広がり、今回の『TENACITY』でもヨンビン、フィヨン、チャニが作詞に名を連ねている。

舞台でひっくり返した評価

パフォーマンスはSF9を語るときに欠かせない項目だが、その評価は初めから与えられていたわけではない。

2021年、Mnetの『Kingdom: Legendary War』1次競演でSF9は参加6組のうち最下位だった。点数は2,014点で、1位のチームとは2倍以上の開きがあった。

この数字には、先に触れた俳優活動の裏面が畳み込まれている。ドラマで名前を知られたメンバーが複数いることはグループの認知度には効いたが、舞台の上では「演技をするアイドルだから踊りは劣るだろう」という先入観になって返ってきた。認知度を稼いだその経歴が、実力評価では不利に働いたわけだ。

2次競演で彼らが選んだのは、その先入観の材料をそのまま武器に変える方法だった。演技の経験を舞台演出に持ち込み、1曲を一編の場面のように構成して、表情と動線が物語を引っ張るように組んだ。点数は3,349点まで上がって上位に着地し、同じ競演に出ていたATEEZなどとの差を1ラウンドで縮めている。

視覚的な軸が定まったのもこのころだ。2020年の「Good Guy」活動で確立したテーラードスーツのコンセプトは、名前を聞いて思い浮かぶ像として固まり、「Tear Drop」ではシルエットと線を強調する方向へもう一度変奏された。

止まらなかった10年

初の1位が2020年1月に来たことには、その手前の2年がある。このグループには演技を並行するメンバーが複数いて、そのうち何人かはグループより先に名前を知られた。チャニは2018年放送のドラマ『SKY Castle』でファン・ウジュ役を演じて注目を集め、ロウンは2019年の『Extraordinary You』で主演を務めた。

アイドルグループで個人活動が目立つと、チームがかすむのではないかという懸念がついて回る。SF9の場合、その関心はグループの側へ戻ってきた。ロウンはチャニが受けた注目がSF9への関心につながったと何度か語っており、実際にその流れの先に1枚目の正規アルバム『FIRST COLLECTION』と初の1位が置かれている。このアルバムは累計117,785枚を記録した。

以降、音盤の成績ははっきりと上がっていく。

表2. SF9の初動売上の推移(ハントチャート基準)

アルバム 発売 初動
『9loryUS』 2020年 72,272枚
『TURN OVER』 2021年 143,898枚
『RUMINATION』 2021年 168,531枚
『THE PIECE OF9』 2023年 179,666枚

2020年から2023年にかけて初動は2倍以上に伸びた。累計で見ると『TURN OVER』が227,192枚(サークルチャート基準)で最も多く、初動最高のアルバムと累計最高のアルバムが別だという点は、このチームの消費が発売直後だけに集まっていないことを示す手がかりになる。

この期間が平坦だったわけではない。2023年9月、ロウンが俳優活動に専念するためにチームを離れ、SF9は8人体制になった。メンバーが順に兵役に入るにつれて、作品ごとの活動人数も変わっていった。完全体で舞台に立てない期間が長く続いたということだ。

それでも活動半径はむしろ広がった。2025年のツアー『LOVE DAWN』は10月8日のヘルシンキで始まり、12月7日のロサンゼルスで幕を閉じている。その間に回ったのは6か国24都市、ヨーロッパ7都市とアメリカ17都市だった。

10年を満たすグループがそう多くないことを思えば、この軌跡はBIGBANGのように長く活動してきたグループの歩みと重ねて読める。ただSF9の場合、その時間を支えたのが爆発的な初期の成功ではなく、地道に積み上がったアルバムと公演だった点が違う。

ファンダムの名前も、その時間のほとんどを一緒に過ごしてきた。2017年1月にファン投票で決まったFANTASYは、デビュー翌年から同じ名前のままだ。

粘り強さを名前に掲げる

2026年8月26日午後6時、SF9は2枚目の正規アルバム『TENACITY』を出す。1枚目の『FIRST COLLECTION』から6年7か月ぶりの正規アルバムだ。

この間隔は活動の空白を意味しない。その間にミニアルバムが何枚も出ており、直近では2026年3月に全曲バラードのスペシャルアルバム『About Love』があった。空けていたのは活動ではなく「正規」という形式で、その席を10周年に合わせて埋める格好になる。

アルバム名は二重に読めるようにつくられている。TENACITYは粘り強さ・執念・くじけない意志を指し、同時に頭のTENがデビュー10周年を示す。先に名前を決めたというより、10年を何で説明するかを決めたあとに付いた名前に近い。

タイトル曲は「Without Wings」。翼なしにもう一度飛び上がるという題が向かう先は、所属事務所の説明によれば限界を越えていく物語だという。収録曲はタイトル曲を含めて10曲で、そのうち複数にメンバーが作詞で参加している。

SF9のメンバーが2枚目の正規アルバム『TENACITY』LIGHTENバージョンのコンセプトフォトでお祝いの装飾の前に立つ姿
『TENACITY』LIGHTENバージョンのコンセプトフォト · © SF9 Official X

デビュー日の10月5日にはちょうど10年が満ちる。その月にはソウルで10周年単独コンサート『Chukmong』が予定されている。

振り返ってみると、このグループがいちばん得意だったのは、速く頂点に立つことではなかった。1位まで3年3か月待ち、最下位からもう一度上がり、抜けた人の場所を残った人が埋めながらアルバムを出し続けた。10周年に掲げた名前がよりによって「粘り強さ」であるのは、だから偶然には見えない。